卓上型NMRでバッテリーの分析に挑戦

28th February 2023 | Author: James Sagar

リチウムイオンバッテリーの魅力とは?

最近、ニュースを見たり、ウェブブラウザを開いたりしても、バッテリーに関するものをほとんど目にしませんが、実は、先週、全国バッテリーの日がありました!気候変動に対処するための電化の動きは、この3年間で急速に加速していますから、これは驚くことではありません。自宅の窓の外を見ると、10台の車のうち2台がハイブリッドではない、完全な電気自動車です。数年前までは、「電気自動車は使えない」という意見が多数派だったことからすると、これは大きな変化です。自動車や家電製品、グリッド・ストレージ、大型輸送車両など、すべての電動化の中心にはバッテリーがあります。これらのバッテリーには、電化目標を達成するために克服しなければならない、化学や材料科学に関する一連の課題があります。この目標は、追いつくだけでも大変なものです。1 kgあたりに蓄えられるエネルギー量を2倍にし、パワー密度を4倍にする必要があり、バッテリーの充放電をいかに簡単にするかがカギとなります。

充電にまつわる課題

非常に幸運なことに、私はこのような分析の課題を観察することができる立場におり、そして何より、限界を超えようとする方々に毎日のように会うことができています。バッテリーの世界に入ったのは、電子顕微鏡関連のソリューションに携わっていたときで、新しい固体電解質やアノード、カソードを見て、お客様が調べている故障モードを理解しようとしたことがきっかけでした。

4年前に卓上型NMR装置を使うようになったとき、私はまず素朴にこう思いました。「バッテリーを調べるのに、これらを使うのか?化学の課題である傾向があるし、リチウムはNMR活性核だしな。」現在、リチウムのNMRはバッテリーの性能に関する重要な知見を与えてくれるとともに、バッテリー開発の明日への指針を示してくれるのです。

従来のリチウムイオンバッテリー断面の模式図

説明にあたって、まずバッテリーの全体像を見ることから始めたいと思います。この図では、アノード(現時点では一般的にグラファイト)とカソード(通常は遷移金属酸化物)が、液体電解質(電解液)に浸されたポリマーセパレーターで分けられています。

この液体電解質が、卓上型NMR分光法のスイートスポットなのです。現在、電極や固体電解質における時間領域NMRのための多くのソリューションがありますが、それらについてはまた別の機会にお話ししたいと思います。

卓上型NMRが教えてくれることは?

しばらくの間、バッテリーについてはあれこれ考えていましたが、2019年9月にあらゆるNMR活性核を特性評価できるX-Pulseが発売されてから、この領域の探求を本格的に開始しました。電解液は、広帯域卓上型NMR分光計で包括的に特性評価するのに最適な化学系であることが判明したのです。典型的な市販の電解液LP30(エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC) 中の1M LiPF6)を例にとると、1つのサンプルから5種類のNMR活性核を分析することができます。1Hと13CはEC/DMC溶媒の組み合わせに関する情報を、19Fと31Pは [PF6] アニオンの正確な特性を、そして7Liはリチウムカチオンに関する情報を提供することが可能です。

LP30バッテリー電解液の卓上型NMR スペクトルにより、全主要成分の特性評価が可能。アルキルカーボネート溶媒 (1H, 13C), ヘキサフルオロリン酸アニオン (19F, 31P) およびリチウムカチオン (7Li)

それはホウ素やナトリウムを含む可能性のある、難解で発展的な電解液に踏み込む前の話です。どちらの元素もNMR活性核を持ち、分析が容易な元素です。私が驚いたのは、これらのスペクトルを分析することで、電解液についてどれだけ多くの情報が得られるかということでした。1H のさまざまなピークの比率を測定することで、適切な混合溶媒であるかどうか、つまりLP30やLP40、LP71であるかどうか、または、特注の添加剤(一般的にはビニレンカーボネート)が適量入っているかどうかなどがわかります。19F NMRスペクトルは、現世代のリチウムバッテリー電解液の分析に最も有用なNMRスペクトルであることが判明しました。30秒のスペクトルで初めて電解液の正確な故障メカニズムや分解経路がわかったときは驚きましたね。以前は、この種の分析にはLC-MSで何時間もかかっていたようです。最後に7Liのスペクトルですが、溶液中のリチウムの量を知るには最適ですが、本当の威力はイオンの拡散を測定する際に発揮されます。COVIDによるロックダウンの最初の2ヶ月間はキッチンに座っていましたが、オックスフォード大学の研究者との偶然のビデオ通話で、電解液に対するNMR拡散分析の可能性が明らかになりました。それからさらに1カ月ほどして、リチウムカチオンと [PF6]アニオンの拡散係数を15分以内に簡単に定量化できることを示す最初の結果が出ました。これにより、イオン伝導率やカチオン移動度の算出が可能になりました。卓上型NMRは、電解液のQCや故障解析のための優れたツールであるだけでなく、研究室での積極的な開発ツールとしても使用できるようになったのです。

バッテリースペースにおける卓上型NMRの展望は?

当時から、私たちはさまざまな種類の電解液を見てきましたし、今も定期的に新しい「レシピ」を見続けています。液状ポリマーカクテルやシングルイオン伝導電解液、イオン液体など、多少なりとも分析できた電解液は、今のところ見つかっていません。

この技術はまだ、可能性の表層をかすめているだけのように思えます。今後、比較的若いバッテリー産業全体とともに発展し続けていくことでしょう。


Dr James Sagar,
Materials Analysis Group Business Manager, Oxford Instruments

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About the Author


James Sagar has been a Strategic Product and Applications Manager in benchtop NMR at Oxford Instruments since January 2019. He joined the company in 2015 as Product Manager for energy dispersive X-ray analysis, looking after the world’s first EDS detector for electron microscopes capable of detecting Li X-rays. Before this, James carried out post-doctoral research at University College London.

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